知的に生きるヒント

幻想的な空色の湖「ピートー湖」は氷河のみせる芸術

かつて私は、この世のものとも思えない色を湛えるピートー湖のほとりにいたことがあります。

カナダ・アルバータ州のアイスフィールド・パークウェイを、レイク・ルイーズ側から25kmほど北西に進んだ場所にあるこの湖は、夏の晴天時にはターコイズブルーの湖面がひときわ目を引く不思議な場所です。

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湖を一望できる高台には展望所があります。そこからみていても、湖に流れ込む川は普通の水のようにみえるのですが、湖に入った途端に水は鮮やかに色を変えています。

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この色の秘密は rock flour と呼ばれる浮遊物にあります。この湖の上流にある氷河がベッドロックを削り、とてもきめ細かい小麦粉のような岩石の粉が川の水に流れ込み、重い粒子はすぐに沈み、緑や青の色を反射する細かい粒子だけが浮遊します。それが日光を反射するために、こうした色になるのです。なにか人間が汚染したように錯覚してしまいそうですが、まったくの自然現象です。とはいえ、湖の水は飲まないほうがよさそうですね(笑)。

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地図ではこの湖は「ペイトー湖」と表記されることもありますが、正確な名前はこの場所に住んでいた森番、ビル・ピートーの名前にちなんで「ピートー湖」が正式です。

ビル・ピートーはもともとイギリス人で、大陸に渡って鉄道労働者として働くとともにボーア戦争、第一次世界大戦、イーペルの戦いなどにも参加した歴戦の猛者でもありました。そしてマッターホルン初登頂で知られるエドワード・ウィンパーのガイドとして、カナディアンロッキーのバーミリオン山道を導いたという逸話も伝わっている山の男です。

厳しい口ひげにパイプを加えた写真はバンフの街に入る際の看板でも有名です。なんというのか、この山岳地帯の魂が刻み込まれたような、忘れがたい印象を残す顔です。

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このピートー湖の水は、上流にあるピートー氷河から来ていたのですが、すっかり後退してしまったためにいまではワプタ氷原からほんのすこし突き出しているに過ぎません。

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1885年に同地点から撮影された写真には雄大な氷河がみえますが、これもすでに氷河期に比べれば温暖な気候になってずいぶんと後退したあとだったといえます。氷河期にはこの谷間のすべてが氷河に覆われ、山は削られ、谷は穿たれてこの地形が生まれたのです。

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はるか遠くをみれば、細い糸のような滝の先に、ジミー・トンプソン山とピートー・ピークの雪に覆われた頂が見えます。高速道路もなかった時代に、峰から峰に、谷から谷に、ビル・ピートーら山の男たちが切り開いてきた道のりが地名となって残っているのです。

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この近辺は氷河の宝庫で、こちらはピートー湖の近くにある通称スノーバード氷河(アラスカの同名の氷河とは別物)です。自らが切り出した地形に氷が残っているさまが翼をひろげて降下している鳥のようにみえることからこの名前がついたそうですが、いまでは胴体と尾をつないでいた箇所が崩落してわかりづらくなっています。

いずれ、世界がさらに温暖になるとこうした氷河もすべてみえなくなり、残るのは名前だけとなるのかもしれません。「過ぎしに氷河はただ名のみ、空しきその名のみを残せり」ということになるまえに、ぜひその目で確かめてください。

ここへの道のり

Peyto Lake はアルバータを貫く国道93号線、アイスフィールド・パークウェイの南部、サスカチュワンの渡しとレイク・ルイーズの中間地点ほどに位置しています。道路標識に書いてありますし、駐車場と道も整備されていますので、ちょっとしたドライブに最適でしょう。湖が最もきれいなのは夏の天気のよい日ですが、曇りでも鮮やかな色の湖面は強い印象を残すでしょう。

「かつて私は」シリーズについて

このシリーズは、以前旅をしたのですが、なかなか書ききれていなかった話題について掘り起こしをするエントリとなっています。

旅記事は本当は旅とともに臨場感をもって更新したほうがほうがよいのですが、なかなかそうはいきません。しかしもったいないので、時間がたってからでも、読める体裁に編集してお届けしています。それぞれの記事は公開後に対応する旅カテゴリに格納される予定です。