ライフ×メモ

[英語メモ] 映画「オデッセイ」原作で主人公が火星から送信した下ネタ

この先、どんな形であれ下ネタは嫌いというひとは進まないほうがいいでしょう。でもほとんどはユーモアの話です。

2月5日に公開の映画「オデッセイ」、原作 “The Martian” (邦訳「火星の人」)は火星に取り残された一人の男のサバイバルを描いたハードSFの傑作です。科学的な背景がおおよそ我々のもっているものと近く、作者は多少の物語的な自由を行使しながらも概ね現実に即した描写をしていきます。

しかしそうした科学と技術のマニアックな記述を飽きさせない小説として支えているのが、主人公マーク・ワトニーのどんな逆境でも失われないユーモアです。悪態をついては仕事にとりかかり、冗談をいいながら手を打ってゆく。そんな彼の打たれ強さが読者の心をとらえるのです。

そのあたり翻訳では伝わりにくいものがいくつかあります。たとえば冒頭の「最悪だ」という言葉は、実際には英語では “I’m F◯cked” となっています。

“So yeah, I’m F◯cked” 「だからそうさ、俺はおしまいさ」という具合に、どこか他人事のように悪態をついているところが可笑しさをもっています。

わざわざそれを通信するか? という一言

多くの人が小説のもっとも面白い箇所として挙げているのが17章、彼がNASAと交信をしている箇所です。

苦労の末に地球との双方向の通信が可能となったワトニーが、「誰とも話せなかったときはそれがいやだったが、話せるようになると鬱陶しいくらい連絡してきやがる」とぐちるほどに、NASA は彼の行動を観察して連絡をいれてきます。

所定の工作作業をしているときに、NASAは次のように連絡してきて、こんなやりとりがあります。翻訳は私で、たぶん邦訳よりも少しくだけているはず。

[11:49] JPL: What we can see of your planned cut looks good. We’re assuming the other side is identical. You’re cleared to start drilling.
[12:07] Watney: That’s what she said.
[12:25] JPL: Seriously, Mark? Seriously?

[11:49]JPL: こちらから見る限り、断面は良さそうだ。反対側もまったく同じに切断してあるものと私たちは推測する。すぐに穴をあけはじめてよろしい
[12:07]ワトニー: それは彼女が言ったことさ!
[12:25] JPL:まじかよマーク…まじか

この “That’s what she said” 「それは彼女がいったことさ」は、だいたいどんな一言でも少しやらしい、性的な意味に変えることができるフレーズです。みなまで言いませんが、こんなふうに使います。

「ああ、(このボルトは)硬い!」「それは彼女がいったことさ!」
「これは大きいなあ」「それは彼女がいったことさ!」
「長さは十分にある?」「それは彼女がいったことさ!」

前半の言葉がどんな文脈であれ、そこに “That’s what she said” と付け加えるだけで、なんだかいやらしい話をしているかのように聞こえてしまう。しかも言われたほうの想像力の中で像を結ぶのでなお悪質です(笑)。

ここで主人公のワトニーは、このとき光の速さでも18分の時間差がかかるとてもコストの高い通信上でJPLからの真面目な通信をこのように茶化しているのです。当然、返事をする方も「おい、まじかよ…」となかば呆れています。

いわゆる下ネタを含むこのシーンですが、宇宙スケールの真剣なやりとりをユーモアの針で刺すところがとても印象的で、つまらない説明調子が続きそうな場面に人間臭い笑いを呼び込んで多くの人が思い出深い箇所として挙げています。

このシーン、映画では再現されているのでしょうか? 無理かなあ。2月5日、劇場で確認したいと思います。

映画「オデッセイ」オフィシャルサイト

(追記)

ちなみにこの映画、私は Audible のオーディオブックで英語で聞いたのですが、荒々しいマーク・ワトニーの声を演じる声優がNASAの女性スタッフも含める十数人の登場人物を声色をわけて表現する力作でとても楽しめました。科学のディテールさえ耳で理解できるなら、オーディオブック向きです。英語もそれほど難しくなくてテンポがいいので、初めての洋書としておすすめですよ。

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堀 正岳

堀 E. 正岳。2011年アルファブロガー・アワード受賞。Evernote ライフスタイルアンバサダー。ScanSnapアンバサダー。この他のブログに、Lifehacking.jpClimate+を運営しています。

著書に「理系のためのクラウド知的生産術」」(講談社ブルーバックス)、「Evernoteオールインワンガイド」(インプレス・共著)、「iPhone習慣術」(インプレス・共著)、「モレスキン 「伝説のノート」活用術」(ダイヤモンド・共著)、「情報ダイエット仕事術」(大和書房)

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