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[英語メモ] 昔はなかった表現、単語の略し方 “drop the mic”

アメリカの大統領選が進んで、議論や討論に関する表現がたびたびメディアでも使われるようになっています。そのなかでもちょっと気になったのがこちらの表現。”drop the mic” です。これ、昔はなかったような…。

“drop the mic” というのは、読んでそのままで「マイクを落とす」という表現です。

これは講演やパフォーマンスがあまりに完璧にできたので、マイクを落としてそのままステージを降りてしまうという意味に使われます。演説で大胆に真実を告げたとき、ラップのフリースタイルを見事にきめた人は “he/she dropped the mic” というふうに表現されるわけです。

80年代にうまれた表現

この表現が面白いのは、昔は存在せず、最近になってメディアによって作られた要素が混じっている点です。

たとえば microphone の省略としてはもともと 1927 年頃から mike が主流でした。え、microphone には k がないのに? と思われるかもしれませんが、こういう省略は意外に多いのです。nuclear (核)のことを nuke と k で書いたり、Coca Cola のことを Coke と書いたりといったものと似ています。

mic はそのままだと「ミク」と発音するのか、「マイク」と発音するのかわかりにくいわけで、それもあって伝統的な省略方法は mike になるわけです。

しかし、その後音響装置などでは “mic” が普通となったため、次第に mike は使われなくなり、mic が主流派となるに至りました

では drop the mic の drop はどこからきたのでしょう?

これには複数の説がありますが、一番流布しているのは80年代のコメディやヒップホップのシーンで使われ始めたというものです。

映像として残っているものとして、1983年のエディー・マーフィーのスタンドアップ・コメディのワンシーンがあります。

Perhaps one of the earliest mic drops on film comes in Eddie Murphy’s 1983 stand-up special Delirious. At one point, an inaudible comment from an audience member prompts someone else in the audience to yell back, “Shut up, bitch!” When Murphy hears it, he drops the mic. Murphy then takes credit for the retort, saying “Y’all didn’t know I was a ventriloquist, too.”

映像として残っているもっとも古い mic drop は1983年のエディー・マーフィーによるスタンドアップショー Deliriousだ。ある時点で、映像では聞き取れない聴衆の誰かが声を上げ、それに対して他の聴衆が大声で「うるせえぞこのやろう!」と叫ぶと、マーフィーがすかさずマイクを落としている。マーフィーはいまの返しはうまかっただろうという具合に「おめえら、俺が腹話術もできるって知らなかったろ?」と続けた

これは「うるせえぞ」の声がマーフィーに向けたものではなかったのに、自分に向けたものだというふりをしてマイクを落とし、そもそも最初の聴衆の声が自分の腹話術だったのさとうそぶいてショーを掌握するというマーフィー流のパフォーマンスです。

ソーシャルメディアで爆発する

80年代に生まれたものの、その後あまり使われなかったこの表現は近年、爆発的に見られるようになりました。

その起爆剤となったのが、オバマ大統領です。オバマ大統領本人ではないものの、彼の役で登場したコメディアンのコントで、マイクが落とされたのです。

To kick off 2012, arguably the year of the mic drop, Key & Peele ran a sketch in which the president (played as always by Jordan Peele) wins a rap battle by jumping on the mic and declaring matter-of-factly, “I’m the leader of the free world.” Afterward he holds the mic out, drops it, and drives away.

2012年、おそらくは drop the mic が爆発した年を先導したのは Key & Peele の寸劇だった。Jordan Peele 扮する大統領がラップバトルに乱入してマイクを奪い「俺は自由世界のリーダーだ」と宣言して、手に持ったマイクを落として去っていった

これ以来、マイクを落とす動作は一つのミームとなっていきます。使われ方としては、日本でいうところの「はい、論破」と同じで、実際には論破していなくても一つのジェスチャーとして “drop mic” が行われるわけです。

また、この表現はソーシャルメディアでも多用されます。ツイートのなかで「∗Drop Mic∗」「mic-drop」などと書かれていたら、それはマイクを落として真実の重みを聴衆に印象づけたという描写として使われています。文字数も少なく、シーンを伝えられるので多用されるわけですね。

こうしてみていると、英語の新しい進化は、それが口頭で使われるかよりも、どのようなメディアにのせられるかが今は強い影響をもっているようです。

本来は人の口から口に伝えられることによって進化していた言語ですが、特異な使い方がメディア上のミームとして伝染することによって一気に広まる。

そう、今後の言語学は、メディア論と切っても切り離せないのです! ∗Drops Mic∗