知的に生きるヒント

いわさきちひろの「にじのみずうみ」をGoogleマップで探す

家内が買ってきた絵本「にじのみずうみ」に子どもたちがなぜか夢中です。

描かれているのは水の精オンディーナと彼女を捕らえようとする魔法使いの民話で、素朴な物語が、いわさきちひろの淡いタッチで描かれています。

特に大きな事件や教訓めいたものもない、簡単な物語なのですが、虹色に輝く湖の情景に心を奪われたのか、特に娘のお気に入りの一冊になっています。

ところでこの絵本、実在の湖を舞台にしているということが、文章を担当されてる坂本鉄男氏による詳細な解説にかかれています。

Googleマップでみるカレッツァ湖

この絵本は、イタリア北部、オーストリアとイタリアの国境であるドロミーティ山系のなかにあるカレッツァ湖を舞台にしていると、解説には書いてあります。

また、「今ではその横を、ボルツァーノ市から、国際的な避暑地でありウィンター・スポーツのメッカでもあるコルティーナ・ダンペッツォ市にむかう街道が走っています」とも記述があります。

ここまでヒントがあれば、今の時代はGoogleマップで探すことはそれほど難しいことではありません。縮尺を変えつつ、しばらく探していると「Lago di Carezza」カレッツァ湖が見つかりました。

地名がちゃんと表示されているだけでなく、Via Carezza と街道にも名前が乗っています。

Carezza

Googleマップには虹の湖として高名なその風景を写真におさめたものが数点表示されていました。たしかに素晴らしい色彩と、南チロルの山岳とのコントラストが夢のようです。

湖の名前の綴りがわかれば、他の情報源からも検索することが可能でした。もっとも詳しいのがイタリア語版の Wikipedia などです。

Leggende、すなわち伝説の欄を読むと、まさに絵本の説話が紹介されています。絵本では割愛されたディテールとして、登場する魔法使いはカレッツァ湖の南側にそびえるラテマール山の魔法使いであることが書かれていて、山の精と湖の精の物語と読むことができます。

また、カレッツァ湖のほとりにはこの民話を記念してオンディーナのブロンズ像もあるのだそうです。

Carezza2

Googleマップから衛星画像を呼び出し、ビューを傾斜してそのラテマール山を、カレッツァ湖側から望むようにするとこのようになります。美しい湖を脅かすようにそそり立つ山の峨々たる岩肌に、昔の人はこの物語のヒントを得たのかもしれません。

イタリア北部の、ドイツ語で伝わる民話

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絵本の解説には、「この地方はむかしはオーストリア領でドイツ語が話されていたため、現在でも日常生活で、イタリア語を使わずドイツ語を使う人が多く」とも書かれています。

これは、この一帯が Trentino、すなわちトレント自治県に属しているという歴史からきています。

中世初期にはイタリア王国とヴェローナ領の一部だったものの、その後トレント司教管区として神聖ローマ帝国の一部として長い歴史を歩み、ナポレオン戦争でオーストリア・チロル領に併合されます。

しかし今度は第一次世界大戦でいわゆるイタリア戦線の激戦区となり、大戦後のサン=ジェルマン条約によって今度はイタリアに併合されるという経緯があります。二次大戦後は、トレントと南チロルの広い領域に自治が認められ、いまに至っています。

この説話が、ドイツ系の人々によって伝えられ、イタリアの民話として絵本にされて日本に紹介されたという経緯もなかなかに面白いものです。

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「にじのみずうみ」は本当にあるんだよ、とiPhoneのGoogleマップで娘にみせると、「行ってみたい!」と目を輝かせて喜んでくれました。

絵本の世界を現実に結びつけたからといって、魔法が消えてしまうとは限りません。こうして実際に地図上で探せないだろうか?という好奇心から始めた調べ物が、思わぬ形で周辺の地形から、土地の歴史を紐解くことにつながり、さらに遠くへの旅のきっかけになっているのですから。

その日のためにも、この話題はメモとして残しておくことにしましょう。

にじのみずうみ (いわさきちひろの絵本)
坂本 鉄男
偕成社
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