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わからないものと対峙する、銀座 “The Mirror” 展へ急げ

縁があって、 銀座四丁目の近く取り壊される名古屋商工会館を会場に行われているアート展覧会「The Mirror」に行ってきました。

展示されているのは現代アートだけでなく、建築デザイン、写真、書籍コーナーなど、小さな建物なのに満喫できる内容です。

(追記:会期は2014, 11/9まででしたが、2014, 11/14, 15, 16に最後のアンコールがあるそうです!)

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こちらが会場となっている名古屋商工会館。1階には名古屋の観光地「明治村」からの展示物が。

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展覧会の副題になっている “Hold the mirror up to nature” というのは、「ハムレット」三幕二場の冒頭の長台詞、いわゆる “Speak the Speech” と呼ばれている段落からきています。

現代アートの副題にこの一文をもってくるのは、かなり挑戦的と言ってもいいかもしれません。というのもこの場で、ハムレットは役者のやり過ぎな過剰な演じ方と、おとなしすぎる気取った演出を、両方とも自然からの逸脱だとして非難しているからです。

昔も今も、演技とは、自然を鏡に映しだすことだ。善行はそれ本来の形を現し、愚行もそれ自体の姿を現し、時代はそれそのもの印象が現れるようにするのだ。

現代アートといえばどこか感動とやり過ぎのボーダーラインをどちらかというと後者の側に逸脱し過ぎな印象がありますのでこれはなかなか大胆な表明では。写真でご紹介していきましょう。

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小松宏誠さん、三好 賢聖さんのこちらは空気を通すことで生物のように揺れる水槽アート。軽やかな水草のような動きと、透明な鉱物のような質感のズレが光のなかで踊っています。かわいい。

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さわひらきさんの幽体離脱をテーマにした映像作品。万華鏡を長く見過ぎたときのような硬質な不安感を誘います。

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こちらは藤森輝信さんの建築とローランド・ハーゲンバーグさんの写真で紹介されている、「鸛庵」というオーストリアで建築されているコウノトリの巣をとりいれたデザインの展示。鳥の巣というと、人間の構造物を利用するように隅に作られることが多いのですが、こちらは逆でまるで人間の家が巣にすがりついているようにみえます。

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アートというよりも、コンセプトがデザイン化されてゆく様子を楽しむ場といえそうです。コウノトリかわいい。

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場を楽しむというと、この取り壊し寸前の名古屋商工会館も、昭和5年に建てられた84年の歳月を経た建物で、会場を歩くだけでなんだか懐かしい雰囲気にひたれます。

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建物をキャンバスにした、もはや他の場所に移すことはきっとできない、会期とともに見られなくなるアートも展示されています。名和晃平さんのこちらは、糊を直接壁に吹き付けることで描かれた絵であり、彫刻でもある作品です。

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近づいてみると、急に立体的になって見る方角から質感や黒光りする様子が変わります。これは見てみないと凄さがわからないものの一つですね。かなりお気に入り。

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タムラサトルさんの「白熱灯のための接点 #16」も、その場にいってみないとわからないインスタレーションです。だらりと垂れ下がった電極がベルトで常に動いており、下のプレートをなぞるたびに小さな雷のような火花が散っています。

電極は、この1点だけでかろうじて電気を伝えており、いまにも離れてしまいそうなのですが、白熱灯は消えません。私はこの作品の前では嵐の前のような緊張を感じたのですが、同行していた方はむしろ「安心さや、暖炉の前のような温かさを感じる」と言っていて、やはり感じ方は人によって違うようです。とりあえずしばらくここで時間を過ごしてほしい場所です。

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土屋公雄さんの天井に浮遊する椅子のインスタレーションはとても気に入ったものの一つ。でも解説の「かつてこの部屋で行われた会議を再現した。歴史は昇華され、会議は天上で行われる」というのは天上と天井の駄洒落かー!とツッコミをいれざるをえません。この部屋にいると、写真で見るよりも天井の椅子に囲まれた感覚になりますので重力が変わったような印象を味わうことができます。

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壮絶な切り絵で知られる尾関幹人さんからは重層的な紙の複合体で作られた2枚からなる作品が。紙を切り刻んで並べただけのようにみえますが、目を近づけてみると、なんだこれはと驚愕する技巧が。

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一枚の紙の中に、それぞれ流れの違う、届く場所も違う切り目が膨大に重なり合っています。画家が絵の具を重ねて表現するところを、この作品は切れ目、つまりは紙の不在によって模様が生まれてゆくのです。不在が積み重なった先に、深い森のなかで方角を見失ったような不安な存在感が出てきます。これはみれば見るほど好きになります。

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刺繍と紹介するには戸惑いを感じるのがこちらの宮田彩加さんの作品。19-20世紀の生物学者ヘッケルの微生物のスケッチを題材に刺繍にしているのですが、気の遠くなるような作業量がみえてきます。

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顕微鏡で体の内部が明らかになった微生物たちの姿が、故意にその殻の枠外にずらして表現されています。インクジェットプリンターが壊れた時のような表現ですが、私は小学校のときに顕微鏡のレンズを近づけすぎて目の前で微生物がレンズとプレートのあいだにはさまれて潰されたときの光景を思い出してしまいました。思い出したくなかった(笑)。

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体験的なアートもここには展示されています。堂本右美さんの小部屋は、一人ずつしか入れず、入っても3分ほど目が慣れるのを待たなくてはいけません。部屋に存在するのは小さな明かりが一つだけ。やがて眼前になにかキャンバスらしきものが見えてきますが、闇が濃すぎて、もやもやとした動きのある何かが潜んでいるようにしかみえません。そこに何かはあるのですが、何と言い当てることができないものを体験する場所です。

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山上渡さんの2枚の作品は、震災前と震災後に描かれた二つの異なる世界観をみることができます。奥にあるのはベー・ビヨンウの風景写真。こちらも韓国の水墨画的な風景を写真でとらえた作品で魅力的。

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ポスターにもなっているアニッシュ・カプーアさんの彫刻。よく知らないのですが巨匠だそうです。このメタルスライム感…。

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この階には松岡正剛さんの書店(本も購入できます)と隈研吾さんによるケーブルの雲のインスタレーションも。

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現在のアートに混じってチベットの仏画が一点だけ。これも圧倒的な存在感があるのですが、ここまで現在アートを楽しんだ人が、急激に時代をシフトされてもうっかり気づかないかもしれないという置き方が面白い。これをここに置くのか…。

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展示も楽しいのですが、やはりこの建物が会期の終了とともに取り壊されてしまうという事実を知った上で歩くことで、さらにアートのもろさや、はかなさを感じることができます。

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さて、こちらの展示会、実は11月9日までと、これを執筆時点であと数日しか会期が残っていません。

ウェブページをみると、「THE MIRROR 会場でのチケット販売はございません」「1日400名限定の完全前売り予約入れ替え制」「チケット観覧日の3日前まで」といったように、「来るなよ!来るなよ!」といってるようなハードルの高い文言が並んでいるのですが、実際にはふらりと寄って、会場の2つ隣のBEAMSで「当日券を」と頼めば手に入ります。

私はふだんこうしたアートの展示にいくことがあまりないですし、誰がどういった実績をおもちの人なのかもあえて知ることなく踏み込んだのですが、とても楽しむことができました。

建物のなじみ深さと相対するような理解を越えたものとの対峙。これからも時折こうした場には足を運んで、自分なりの言葉をみつけてご紹介したいと思います。