息づく線に魂を見よ。閉幕迫るメカニックデザイナー「宮武一貴原画展」に急げ

宇宙戦艦ヤマト、超時空要塞マクロス、宇宙の戦士、ダンバインに、エウレカセブン。こうしたアニメやSFのタイトルを聞いただけで胸が踊る人も多いと思います。私などは子供時代のほとんどがこうしたメカニック、ロボットアニメとともにあったので、それぞれのタイトルに思い入れがあります。

そうした作品のメカニックデザインやコンセプトを生み出してきたスタジオぬえ所属の宮武一貴氏の原画展が横須賀市の世界三大記念艦「三笠」のなかで行われています。繰り返しますが、「三笠」のなかです。記念艦「三笠」のなかで稀代のグラフィックデザイナーの未来感あふれる作品を見る機会というのは、なんというクールさだろう!

会期は11月23日までと閉幕が迫っているのですが、先日開催された氏のトークショーの様子と、逸話をご紹介したいと思います。これは、行かないと、後悔しますよ!

記念艦のなかの原画展

もともと横須賀市在住で、記念艦三笠も子供の頃から親しんできたという宮武氏。メカニックデザイナーとしてのルーツは、漁船や護衛艦を描いていた子供時代にまでさかのぼります。

宮武氏がまだ5-6歳のころ、祖母とともに波止場で漁船を描いていたところ、やってきた漁師が二人の絵をのぞきこんで「ぼうやのふねは走るね。みたことない船だけど。ばあちゃんの絵は綺麗だけど沈むね」と声をかけたというエピソードがあったそうです。見たことがないものだけど、走りそう。フィクションのなかのリアリズムという視点が芽生えた瞬間といっていいでしょう。

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もともと「一生個展はやらない」と言っていた宮武氏が今回の原画展に乗り気になったのも、そんなインスピレーションの源泉ともいえる、長年親しんだ艦のなかでの開催という提案を受けてのことだそうです。

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展示が行われているのは後甲板の下層、階段を船の奥の奥へと下ってゆくと、そこに未来への扉が開いているというのは素敵としかいいようがありません。

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会場には宮武氏初期の代表作であるマジンガーZの内部図解から、代表作である「宇宙の戦士」のパワードスーツのデザイン、そして「ダーティーペア」、「さよならジュピター」、「聖戦士ダンバイン」の設定画、イラストレーションなどへと進みます(写真は横須賀市観光推進課の許可を得て撮影しています)。

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人柄でも知られる宮武氏らしいちょっとした遊びも会場のそこかしこに。こちらは「撮影禁止」の札ですが、「超時空要塞マクロス」のゼントラーディ語で書かれています。他にもガミラス語で書かれたプレートもあります。「『◯◯がない』とか言わないで」まで! デカルチャー!

ところで、今回の展示で作品のタイトルや説明に使われているのは現在では生産されていない横方向の織りの入った、スタジオぬえで愛用されたいわゆる「ぬえ紙」ですので、来場の際はそちらもご覧ください。

会場の落書き帳にも注目です。初日に来場したアニメ関係者や業界の人々の書き込みもあって、ファンならにやりとしてしまうことでしょう。

大きなものを描く。フォーマットを創る

原画展のは初日では宮武氏と加藤氏、スタジオぬえの森田氏によるトークショーも行われました。ここで興味深かったのが、宮武氏がご自身の仕事を「フォーマットを作ること」と表現していたことです。

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「2001年宇宙の旅」の映画を見た際に、作品固有のメカニックのニュアンスを生み出すために科学的な整合性をあえて捨てている部分があることに気づいた宮武氏は、作品ごとにリアルがあること、作品の世界観やコンセプトさえもがその上によって立つデザイン、すなわちフォーマットを創ることが自分の仕事だと気づいたのだといいます。

原画展のパンフレットには、「交響詩篇エウレカセブン」の作中に登場する高さ10000メートルもの巨大な塔をデザインした際に、直感的にそれがわかりやすい重量感よりも入道雲のように風が吹き抜けて支えられる姿をイメージしたという逸話が載っています。

私も、エウレカセブンの制作が発表された時のことを覚えているのですが、キャラクターなど発表が一切ないなかにあの塔の映像だけが提示されていてその恐ろしいまでの存在感に驚いたのを覚えています。

そのエウレカセブンの塔と、ゲーム用に描き起こされたグレートウォールの設定画も会場には展示してあります。下層雲から中層雲の抜け道と、頂上は成層圏に触れているはずの上部構造に至るまでの「みえないはずの構造」が緻密なイラストレーションと膨大な書き込みで表現されていて、大きな感動を覚えました。

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トークショーでは33年前にロバート・A・ハインラインが来日した際にサインしてもらった色紙も登場して、「加藤くんがここで残りのスペースを書き込んで完成だ」と宮武氏がいたずらを仕掛けるシーンも。「ハインライン先生より大きく名前をかくなんてできないでしょう」と困る加藤氏を「さあ書け」と促す様子に来場者は大笑いしていましたが、その色紙も会場に展示してあります。

テクノロジー嫌いで、携帯は使わず連絡はFAXというスタイルを貫いていることでも有名な宮武氏ですが、作画についてもそれを守っている理由はたとえばタブレットのような機器を使うと自分の指と、作品の間に、別のものが介在してしまうのが嫌いなのだといいます。

それはたとえばソフトウェアであったり、本来は描き手を助けるつもりで加えられた機能なのですが、そうしたすべてが煩わしく、自分の意志が100%反映できる手描きにこだわり続けているのです。

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宮武氏の緻密でどこか肉感的な線にはそうしたデザイナーがみえない世界に手を伸ばす魂が込められています。そしてそれは肉眼でしか感じることができないのです。「宇宙の戦士」の挿画を描く加藤直之氏も、「宮武の設定画だけは、原画をとりよせないといけない。原画じゃないと大事なものが抜け落ちてしまうんだ」と証言します。

こうした作風はもう古いのかもしれません。こうして手で描かれた味が作品として残される時代は過ぎ去りつつあるともいえます。だからこそ、いま、見るべきなのです。

会期終了まであと数日。ぜひ御覧ください!

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