Edition at Play:印刷不可能な新しい読書体験を提供するプロジェクト

Edition at Play:印刷不可能な新しい読書体験を提供するプロジェクト

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電子書籍はインタラクティブな体験をもたらす媒体だというのは、もうずいぶんと前から言われていることですが、実際に制作される書籍は多かれ少なかれ伝統的な紙の書籍と対になっています。

技術的には動画や、音声といったものもとっくに埋め込むことができるのですが、それが書籍としての新しい形を提案するというところまではなかなかいきません。たいていは、マルチメディアをのせたウェブサイトと似たようなものができあがります。

そうした限界を乗り越え、書籍なるものの境界線をどんどんと押し広げようとするプロジェクト Visual Editions がGoogle’s Creative Labとの共同で公開している “Editions at Play” がこの状況に対する一つの解答を与えています。

書籍のあらゆる場所が体験として印刷不可能で、時間をかけてなぞることによって、物語が紡がれてゆく。これはもはや本ではない何かなのではないでしょうか?

Google Mapで世界中の扉を開く

現在、Editions at Play には2冊の「本」が登録されており、スマートフォンからアクセスしてお試し版を体験することができます。

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その片方、Reif Larsen による “Entrances & Exits” という作品は、Google ストリートビューのなかで扉の上に浮かび上がった文字をタップしてゆくと、その扉の内側に書かれた秘密にアクセスして、さらに物語の深みにたどり着けるようになっている、一種のラブストーリーです。

扉の奥にゆくと、若干のテキストが表示されてその場所にまつわる逸話が提供されます。そして矢印にしたがって、読者は奥へ、奥へと世界中を旅できるのです。

Google ストリートビューは物語の情報を受け止める足場として機能しており、描写がなくても三次元の体験として世界は読者に提示されるわけです。

ダイアローグの錯綜を埋め込んだ書籍

もうひとつの書籍、Sam Riviere と Joe Dunthorneによる “The Truth About Cats & Dogs”という作品は、最初に書籍を「起動」した時点で二人の人物のダイアローグをいったりきたりします。

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それは二人の人物の日記であり詩であり、互いに相手には隠している感情や、表向きにかけられた言葉とはうらはらの内面を錯綜して伝えていきます。

どちらの人物を先に読み進めるのも自由なので、物語の体験の仕方は無限にあります。しかし最後の一言をどちらに語らせるかによって書籍としての体験が変わってしまうように設計してあるのがにくい。二人のひとが喧嘩している場合に、その両方の話を入れ違いに聞いていると、言い分を耳にする順序で印象が変わってゆくようなものです。

書籍の何を抽象化したのか

辛辣に見るなら、こうした試みは過去にもいくつかありましたし、ゲームブックなどのように読者の選択が行き先をきめるような書籍はそれなりにありました。

ただ、Editions at Play の試みが面白いのは、「読む」という部分を潔くあきらめて、ストリートビューという体験の注釈のように物語を語ったり、本来は交わらないはずだった二つのシステムログのようなテキストを時間方向にトラバースできるようにしたりと、読書が不可能な領域で物語ることを目指している点です。それは啓示のようであったり、物語を三次元ではなくて四次元的に体験することでもあります。

こうした技術的な足場ができあがると、創作を行う側も試されます。創作者はただの描写ではなく、断定的な感情でもなく、解釈が開かれた体験を創作して読者にとどけなければいけません。それはこうしたインタラクティブなインターフェースで、どこまで再現なものなのでしょうか?

Google’s New Interactive E-Books Would Be Impossible to Print | Wired

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